すぃんぐ打法

6月に社員、店舗スタッフ入り交じっての野球大会を企画した。

企画したといっても入社以来、
「やらないとお前の評価はないと思え」という上司の脅しを
小心ものの僕に裏切る勇気がある訳もなく
今年で6回目となる。

若かりし新入社員当時、
甲子園に出場したことがある社長に対して
「僕も甲子園目指してました!」なんて話をしてしまったものだから、
すっかり「野球と言えば中山」というレッテルを貼られてしまった。

おまけに社長の母校が甲子園で優勝しちゃったものだから
社長の野球やりたいモチベーションが頂点に達して
誰も止められなくなってしまったのである。

最初はグラウンド予約からグローブやバット
審判防具一式などのレンタル手配、運搬まで全て1人でやって
えらい大変な思いをしたのだが
今では、多少の後輩も出来たおかげで
メール1通でグランド手配から当日の打順オーダー、
ジュースやらおにぎりまで用意される。
それだけ月日が経ったということだ。

さて、普段タチの散歩程度しか運動していない
己にとって、これでも一応高校時代
ヤクルトスワローズのスカウトが「体の大きい帰国子女がいる」と
視察に来たことのある実力を見せるべく、トレーニング再開することにした。
とは言え、昨年4タコに終わってしまったことが悔しいだけであるが。

6時の早朝と1時の深夜に
タチの散歩がてら、公園で100スイング程度素振りしてみる。

そこで最近、打ちまくっている慎之介に肖って
話題の「すぃんぐ打法」なるものを実践してみる。
バットを振りながら下半身を逆に回転させる打法である。

あのバリー・ボンズが35歳を越えてからも
なおも本塁打記録を塗り替えているのもこの打法。
イチローしかり、松井秀喜しかり要は打率を
残してる選手は皆、この「すぃんぐ打法」を取り入れている。

落合博満の言葉を借りれば
丁度消しゴムをねじると、一瞬にして元に戻る。
バッティングはまさに身体をこの消しゴムと同じ
状態にすることでバットの回転速度を上げるわけだ。

なるほど、
久しぶりの素振りにも関わらずヘッドスピードが鋭くうなる。

どうも打球を遠くに飛ばすためには力んでしまうのが人の常。
しかし物理学を思い出してみよう。
誰もが習った運動の方程式は力=質量×加速度(F=ma)である。

つまり、力む必要はどこにもない。
どこまで重いバットをどこまで早く回転できるか。
打球を遠くへ飛ばす原理はこれに尽きるわけだ。

こんなこと書くと、僕が高校時代
どれだけ野球バカであったかをさらけ出してしまうことになるが
物理の教科書よりも、当時の高校野球児は皆読んでいた
「科学する野球」シリーズの方が手垢で汚れていたことは事実である。
まぁ、そもそも球に当たらなければ何も始まらないのだが。

誰もいない深夜の公園。
タチが首をかしげながら、「すぃんぐ打法」に夢中な僕を見る。
愉快な季節が今年もやってきた。