「熱い夏」

この暑い夏は僕にとっては熱い。
何が熱いのかと言うとクーラーを一度も使わずに
この「熱い夏」を過ごしてみたいと
今まさに実戦てしているところなのだ。
とは言え、従順なサラリーマンであるから
さすがに、会社のクーラーまで止めることは出来ない。
そこが僕の弱いところでもあるのだけれど
家ではクラーのコンセントを抜いて、
ガムテープでぐるぐる巻きにし、窓を全快にしてある。
朝起きると汗びっしょりである。
汗で己の身体の分身ができるのではないかと
心配するほどである。
だから寝る前にしっかりと水分を補給し
布団の横には寝水を用意しておく。
甲子園を目指した高校野球児であったことも
手伝って、暑い夏は平気である。大好きである。
むしろ、暑い夏にクラーをガンガンに効かせた
屋外機の熱風が嫌いだ。
クーラーも扇風機もない蒸し暑い車内で
窓を開けて外から流れてくる風で
汗を冷やすような生々しさを求めているかの様。
僕にとってはこの「熱い夏」は必然なのだ。
 
家電販売をしていた親父からこんな話を聞いたことがある。
クーラーを効かせた部屋とクラーのない部屋に
同じ条件、同じ人数の生徒に同じ内容を暗記
させた実験がある。
即座に行ったテストではクーラーを効かせた
部屋で学習した生徒の方が点数は良かった。
しかし、1ヵ月後に同じテストを行ったところ
今度は、クラーのない部屋で暗記した
生徒の方が点数は良かったという結果が出た。
つまり、クーラーを効かせた方が効率は良いが、
汗水たらして苦労して覚えた記憶は
なかなか消えないということなのだ。
いきなりの素人が42.195km走るとえらいことに
なるが、毎日50km走っている人にとっては
どうってことはない。
昨年は冷夏だった。だから
「観測史上最高」などの文字も手伝って
今年の夏はものすごく暑く感じるのかも知れない。
クーラーを効かせた現実離れした部屋で
温暖化について深刻に語ってみたところで
そもそもその温度差は拭えず、危機感は薄れてしまう。
僕にとってはこの「熱い夏」は必然なのだ。
 
僕は生野菜にドレッシングをかけない。
それは高校時代、保険体育の先生からの教えからである。
君らはサラダにドレッシングをかけるだろ。
あれは、舌を麻痺する。
本来、野菜は甘いものなんだ。
でも農薬を使うと、野菜は苦くなる。
人間には元々、それを見分ける能力があるのだが
油と塩分によって味覚が誤魔化され
現代人の舌は甘い野菜すら苦く感じてしまう。
ノミは体長の60倍のジャンプ力がある。
コップに入れても当然軽く飛び出してしまう。
そのコップに蓋をする。
するとノミはジャンプする度に蓋にぶつかり底に落ちる。
しかし繰り返しているうちに蓋にぶつからないように
低いジャンプしかしなくなる。
暫くして蓋を外す。
もうノミはコップから飛び出すジャンプは出来なくなった。
本来保持している能力は環境の変化で失われてしまう。
僕にとってはこの「熱い夏」は必然なのだ。