風景のリノベーション

府中市美術館に行く。
府中ビエンナーレにてハルマキ(田中陽明)がフューチャー
されているということで、アトリエに行く約束も
なかなか実現できず。結局ハルマキ主催の講演会にて久々の再会。
http://www.art.city.fuchu.tokyo.jp/koukai1.html
 
ハルマキは「アートの分野で社会に潜んでいる問題を提起し、
建築・デザインの分野でその問題を解決する」
なかなか面白い活動を行っているアーティストである。
懐かしき僕の大学卒業制作映像でもある「non stoppable 2 men」の
アジトとしてハルマキの当時のいけてる部屋を使わせてもらったり。
ま、学生時代そのいけてる部屋でさまざまなアート論を繰り広げた。
そのいけてる部屋というのは鵠沼海岸に近い古いマンションを
2トンほどの廃材を出して改築した、分厚い「ダリ全集」と立花隆
「サル学の現在」がやたらと似合う手作りの部屋のことである。
 
引っ越す際、私は本気でその部屋を譲り受けようかと悩んだ末
通勤時間を優先してしまったわけだが、それ以来その部屋の
生存も分からぬまま今日に至る。社会人になってからは、私が
本気で社内で映画制作を目論んでいる際、代々木のこれまた
病み付きになるインドネシア料理を食べながら、これから
ブレイクしそうで、安上がりな映像監督がいないかという
相談に乗ってもらったことも今では遠い記憶である。
 
今回は府中市から、美術展で何か出来ないかの要望に対して
ハルマキなりの街づくり、いわゆる都市計画プロジェクト室
そのものを美術館にて市民に公表しようではないかという
[GREEN-NET SCAPE]これまた素敵なプロジェクトである。
http://www.floweb.org/g_net_s/
 
緑地が多く、それを町のスローガンにも掲げている府中市
ところが大量の落ち葉、害虫などの被害からあまりこれを
歓迎していない市民が多いという。その問題点にハルマキは
緑地に書斎、風呂場、台所などの生活パーツを分散させ
府中市全体として一つの公共の家になるように、より緑地を
生活の一部に取り込むことで、自然を市民にとって身近な
ものにしようという提案を行った。ところが公園には
新たに建物を建てることはできない。そこでその機能を
備えた、移動できるトレーラーにしようという結論に至った。
 
そのトレーラーをパッケージにさまざまなアーティスト
から提案をもらい、例えば縦長の火燵だったり、巨大鉄板で
あったり、ドッグパークであったり、クレーンで持ち上がる
図書館であったり、そのアイディアは多岐に渡る。さらに
移動できることが幸いして、万が一ある地域で地震による
災害が起こった際は、救援としてそのトレーラーが支援に
行くということも含まれた提案となったわけだ。
 
およそ、そんな背景を基に、街づくり、都市再生などに長けている
サステイナブルハウジング―地球にやさしい資源循環型住宅
清家剛氏(東京大学新領域創成科学研究科助教授/環境学)と
塚本由晴氏(東京工業大学大学院助教授/建築家/アトリエ・ワン
を交えての講演会となる。
 
内容はとても多岐に渡り、最後に質問するポイントが見つけ難い
ものであったが、要約すれば、空間とは「やり方」より「あり方」。
場所とは「更新」と「維持」。その間になる価値が落ちたものに
対しては流動性を入れることで、その場にあるべき何かしらの
魅力は浮き上がってくるであろうという。まとめると講演を聴いて
いなければさっぱり分からない内容である。
 
メイド・イン・トーキョー
例えば、塚本氏が行ったトーキョー・リサイクル計画では、高速道路の
下が無駄なスペースとなっている。ならばその下にもう1本道を
ぶら下げ、そこを自転車の高速道路にしようとか。あるいは
熱海再生計画においては、自分さえ儲かればいい主義のホテルが
ゲームセンターやら、カラオケやら、ナイトクラブやら施設を
巨大化することによって、全く浴衣を着てぶらぶら街を歩かなく
なり、街自体の魅力が無くなってしまった。やがて団体から個人で
旅行する時代へとなり、熱海はまったくもって旅先の候補にすら
ならない。ならば、思わず浴衣を着てわくわく表に出たくなる
仕組みを作り出そうという計画であった。周りにガラス張りの
カフェやレストランを並べ、歩く歩道や、海を眺めながら下っていく
エスカレーターなどを設けて、あたかもファッションショーの
ようにライトアップするとか。やはりラスベガスのような
カジノでしょということで、これもガラス張りで明るく女性も気軽に
来れる1階が100台の雀荘であったり、2階がパチンコ、そして3階が卓球。
しかも浴衣を着ていなければ入れないというジャパニーズ・カジノを
繰り広げようではないかという提案であったり。
 
まぁ、およそ机上の空論から始まり、実際に行ったという
越後妻有トリエンナーレにおける10メートルの客席がある屋台を
作り出し、営業した活動をしっかりと映像ドキュメンタリー
にしたものも面白かった。10メートルの屋台が人力で
街を移動していく。そのビジュアル事体が地元の方々との
会話の切っ掛けとなる。さらにはお酒と何故かメニューにある
白玉(白いものと透明のものしか出さないがコンセプトらしい)
屋台の机をはさんで対面で座れるから、会話が弾み、人々を
和ませる。こちらは好評でさらに3台、地元の人々が作ったという。
 
まちをリファインしよう―平成の大合併を考える
ただ、この手の街づくり、活性化の問題としてどこまで付き合えるか。
つかりどこまで継続できるかが大きな課題として残る。
結局は部外者である以上、そこで何か活動をしたとしても
地元の方々を巻き込まなければ、面白いことをやった一発屋
終わってしまう。ある建築家は地元の若者を育成し一級建築家を
輩出することで、その街づくりに徹したという話もある。
さらには、先ほどの流動性を街に取り入れる試みを
フラッグスマネジメントと呼ぶらしいが、人と人の関係性
の中に緑、水、土など自然を仲介させることで
およそ人間関係は救われるという人間論などの話まで膨らんだ。
 
取り留めの無い文章となってしまったが。およそ講演会もそのような
内容であったから仕方がない。ただ、わざわざ府中まで行った
わけだが、こんな貴重な、おもしろい話をタダで聞けてしまうという
1日。まさに建築が場から解放され、移動が自由になったように
自らの身体もたまには自由に移動させるべきであると思った。