21歳大久保嘉人に惚れた。

思えば昨年12月、僕が初めて生のサッカーを観に行ったとき。
「死ぬ気で戦う」というコメントを残して韓国戦の日本代表FWに立っていた彼。

試合開始10分早々に、ゴール前の競い合いから倒れた彼に
審判からレッドカードが宣告された。シュミレーションだと。

観客スタンドからは「バカ!大久保、なにやってるんだ!」という冷たい罵声が飛び交う。

両手を目にあて、しばらく立ち竦む彼。
キャプテンの宮本が慰めながら、ベンチへと引き上げていく。
それを迎えたジーコに肩をポンポンと叩かれるも、
彼はグランドを振り返ることなくそのままロッカールームへと消えていった。

ライトに照らされた美しいグランドの緑は、あまりにも冷たい青を強調しすぎる。
何事も無かったかのように審判の笛とともに再開される試合。
彼のいないグランドを眺めながら「もう駄目かも」と僕は嫌な気持ちを彼に抱いてしまった。

おそらく本当に「死ぬ気」で戦っていたのだと思う。
そんな彼にあまりも残酷で、卑劣な宣告であった。

第一志望の入学試験で、いままでの積み重ねた努力の成果を
さぁ発揮すべく第一問を解き始めた瞬間。「はい、あなた失格です」
と試験管に言われるようなものだ。

その後、荷物をまとめ、教室を出て家路へと帰る。
どんな気持ちで。このやりきれない思い。どこにぶつけたらいい。
納得いかない。でも受止めるしかない。

21歳大久保嘉人に惚れた。

ご存知の通り今年の2月、
彼はW杯1次予選オマーン戦とUAEラウンドで「ダブル落選」した。
調子が悪いとは言え、評価うなぎのぼりの後輩平山相太がちやほや
されている中、彼は静かにマスコミに応えた。「仕方ないです」と。

日本ラウンドでの復帰を目指しC大阪のキャンプに参加した彼。
A代表の合宿中に無断外出していた事実が発覚したり、
試合中に相手選手を蹴り飛ばすなど、冷たいマスコミ報道が煽る中。
彼は諦めることはない。

そして3月U23日本代表に戻った彼。
日本ラウンドでバーレーン戦に負けた試合、
彼はベンチで出場の機会を必死に伺っていた。
グランドをにらみつけ今にもグランドに走り出しそうなゲームフェイスで。

「得点を取れるように、力になれるよう頑張りたい。点を決めるだけです」
「チャレンジャーという気持ちで1戦1戦、戦っていきたい」
それを認めたU23日本代表監督、山本昌邦
そして彼はその言葉を裏切らなかった。

元気の出るチーム(会社)の4カ条。単純な組織、明確な目標、周知結集、信賞必罰。
まさに山本監督はこれを実践し、「彼らは間違いなく成長している」。
その結果、スター大久保嘉人が必然として現れたのである。当然潜在能力を持っている
平山相太もこれに続くであろう。

どこかの「たられば論争」で次は参院選だと騒いでいるマラソンランナーとその監督とは違う。

21歳大久保嘉人に惚れた。

さらに一回り大きくなった彼を、そして彼らをアテネで見れることを期待して止まない。