何てことしてくれるんだよ!

とはディズニーに米国配給拒否された新作「華氏911」で
今年のパルムドールを手にしたマイケル・ムーア
壇上で審査委員長を務めるタランティーノに向けて発した第一声である。

お互いディズニー傘下のMIRAMAX配給監督であるから談合なのか?
ムーアは「米国の右派メディアは『(反米の)フランスからもらった賞』と
報じるだろう。だが、審査員9人のうち4人は米国人、英国女優1人を
加えれば過半数が有志連合側。フランスの賞じゃないからね」
と相変わらずの説得力で、しっかりと会場から笑いをとっていた。

あたかも用意していたかのようなスピーチ。
マイケル・ムーアのすごさは、とっさにそんなことを
言えてしまう記憶力とユーモアセンスにある。
政治家でさえ彼とのディベートにはお手上げだ。

しかし、最初の嘆きの言葉を本来、発すべき人物は
「ヤギラユーヤ」くんの方ではないだろうかと
松尾スズキの「ぬるーい地獄の歩き方」を読んで
どろどろした子役の世界を知ってしまってから、そう思わずにはいられない。

史上最年少、日本人初のカンヌ映画祭男優賞に輝いた、柳楽優弥君14歳。
「誰も知らない」での彼の演技は、それを演技と呼んでよいかは別として、
少年の成長過程がものすごくリアルで、素晴らしいの一言。特に目がいい。

ところが、フランスの名優ジャンピエール・バクリと競ったという演技力より
むしろ1年という撮影期間で少年の成長を撮り続けた是枝監督の功績である
と言ってよいのではないだろうか。

「まさか、男優賞は予定していなかった。」と授賞式後の是枝監督は
笑顔でコメントした。監督には、してやったりという思いもあるのかも知れない。

よーく考えてみよう。

いかに素直な少年、柳楽優弥君でさえも
今後、彼の演技には「カンヌ映画祭男優賞」という大看板が
絶えずくっついてしまう訳だ。
そんな中、天才肌よりはごく自然な演技がうりの彼の良さが
失われやしまいか。

マズローの5大欲求のいうところの自己実現とは
悩み苦労する20代、発展途上の30代、油の乗り切ったまとめの40代。
そして50代になってから初めて、なりたい己に近づくことの出来る人生こそ、
実は豊かではないかという仮説を僕は勝手に立てている。

例えば10代でちやほやされてしまった少年、少女は統計的にグレる傾向が強い。
これを「北の国から純と蛍症候群」または「マコーレ・カルキン病」とも呼んでいる。
人間には人間なりのスピードがあり、無論、個人差もあるが
高齢化社会、何も生き急ぐことはないのだ。

ともあれ、同じ日本人として14歳の少年の功績は誇りに思うし
医者に余命を宣告された訳でもないので、今後の彼を、静かに見守りたいと思う。