きわめてよいふうけい

雛鳥は初めて見たものを親と思いこむ。
 
久しぶりに両親と兄貴の住まいに訪れる。
全員ぐたーと居間のソファーに座っては
何も会話することなくテレビを見る、男3人。
お袋は孫娘たちの部屋で何やらご披露の
お付き合いらしい。
時おり「おばあちゃん、みて、みてー」
「はい、はい。なあに。」
ピアノもどきの電子音が2,3鳴る。
「あら、すごいわねー。」
「きゃはっ!」
なんて声が子供部屋から聞こえる。
 
テレビ画面には2週連続優勝の宮里藍
映し出され、「たいしたもんだなぁ」と親父。
「茂、何時からだっけ?」と兄貴。
「朝5時ぐらいからかな」と親父。
「そうか、そのぐらいか」と兄貴。
「楽しみだね」と僕。
かつては兄貴が倉本プロのキャディーだった
実はゴルフ一家なのだ。
見事に生産性の無い会話である。
 
しばらくの沈黙の後、夕方のニュースで
野茂からホームランを打つ松井秀樹の映像が
流れたとき、咄嗟に「最近仕事はどうなんだ?」
なんて、とってつけた質問を親父がぶつけてくる。
「うん、分からないことだらけだけど、なんとかやっているよ。」と僕。
「人事か。あれだ、本田技研調べとけよ。教育改革が有名だからな。」と親父。
「へー、そーなんだ。今度調べてみるよ。」と僕。
「もう30になったんだ、これってもの持っておかないとな。」と親父。
「うん」と僕。
「お前はまだ、異動希望出しているのか」と親父。
「うん、まあね。」と兄貴。
「やはり海外行きたいか。ニューヨークか?」と親父。
「別に、海外であればどこへでも行くよ」と兄貴。
「そうか。」と親父。
別に話すのが面倒くさいのではない。
かつては縁側に座り、お互い風景を眺めながら会話するのが
日本人。それが我が家ではテレビに置き換わっただけのこと。
 
笑点が終わり、兄貴がそれとなくチャンネルを変える。
ジャイアンツ戦の始まりだ。
親父が子供部屋にいるお袋を呼びつけ、
「おい、ラジオ、ラジオ」と騒ぐ。
「今日はランデルか。ピッチャーがいないからなぁ」と
ラジオのイヤホンを耳にセットして、
「今日は負けゲームだな。」なんて言いながら
しっかりジャイアンツ戦観戦モードに突入する親父。
その2人の息子は親父の愚痴を聞きつつも
また、無言でテレビの映像を見続ける。
 
これが幸せというものなのか。
初めて見たテレビはゴルフ場の映像であったことを鮮明に覚えている。
あれは僕が2歳になった年の全米オープンだったような。
お気に入りのチームは当たり前のようにジャイアンツである。
なぜか最初に握っていたのは王貞治のサインボールだったな。
そんな原点を再確認するかのような時が過ぎ、気がつけば、
外の日差しは夕方を通り過ぎて、あたりのマンションから
それぞれの電球の明かりが燈り始めている。
「親父、プライド見ていい?」とは、言わないでおいた。