雲遊と背中
映画「エレファント」を観た。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「月光」にのせて
ガス・ヴァン・サントの美しき映像詩は流れる。
誰もが知っている、あまりにも悲惨な出来事までの叙事を
あまりにも淡々と、あまりにも日常として描ききった。
そこに応えはない。
真実を真実として受止める。それだけで十分なのだ。
ひとつの儀式を終えるかのように雲は流れる。
背番号「55」を観た。
最高の舞台。誰もが期待するなか彼は見せてくれた。
夢を描く放物線が放たれた瞬間「うゎ!」と全員立ち上がり
しばらくその行方を静観する。
そして白球がスタンドに吸い込まれていく真実を
確かめるように「やったぁー!」と全員が万歳をする。
これを観にきた。でも本当に観てしまった。
「YES」と、その大きな背中は静かに応えた。