「スペイン坂」の由来

スペイン坂

友人と
なんとなくご飯を食べようと約束して
なんとなくQ-FRONT6Fワイヤードカフェでお茶してから
なんとなく向かった「スペイン坂」。

別に「スペイン坂」に行ったら
いきなりオダギリジョーがいて
青いペンキを白壁にぶちまけている姿が
見れるわけではないが
なんとなく美味しい匂いに誘われたのだろう
「スペイン坂」のスペイン料理屋さん
「びいどろ」に入った。

「スペイン坂」だからスペイン料理
そんな安直なものではなくて
そこが「スペイン坂」という名前であることすら意識せず
ふらふら歩いていたら「パエリヤ 1200円〜(2名分)」
という看板にひかれて入った。

そーいえば、パエリヤは親父の元同僚が脱サラして創った
スペイン料理屋さんで2年前に食べて以来。
残念ながらそのお店は今はないのだなぁ
なんて最近やたらと昔を思い出しているばかりで
ねた切れですぐに「昔懐かしのホニャララ」なんて特番やる
どっかのTV局みたくなっちまったなー。
「け、人間なんてちっぽけな存在だぜ」なんてキザな台詞の一つ
でも頭に思い浮かべながら
俺は近々死ぬのではないかなんて
寒気がすることもままあるのだけど
感じの良い紳士に「こちらへどおぞ。」
ぱかぽか日当たりの良い窓際の席に案内される。

その窓から見える通りをながめて
始めて、ここは「スペイン坂」であることを意識した。
ここまで文章ではタイトルも含めて7回も
「スペイン坂」という言葉が出てきたが
間違いなく、その日僕の「スペイン坂」シナプス
始めて繋がった瞬間である。
ちなみに、ここまでで9回である。

待てよ「スペイン坂」にあるスペイン料理屋さんで
スペイン名物のパエリヤを食す僕。
なんだかどっかの頭いいやつらの戦略に
まんまと引っかかってしまった子羊か、俺は!
なんて突っ込みたくなったが、感じの良いマスターに
なんとなしに聴いてみる。

「スペイン坂でスペイン料理。なんだか粋ですね」
「そうなんですよ、実は当店はスペイン坂という名前の由来になったお店なんです」
「え、そーなんですか!じゃこちらは結構古いお店なんですか」
「はい、私で3代目でございます」
「全く知りませんでしたー。」

あまりの偶然にびっくりして
普段はあまり注文しないスペイン産の白ワインをボトルで頼んでしまった。
店内を見渡すと白い洞窟を思わせるようなつくりと
店内に飾られたピカソの青の時代の絵画。窓から見える表にあるスペインの国旗。
シネマ文化村で上映中の「カルメン」のポスターなどが
今までの僕の「スペイン坂」概念(そんなたいそうなものではないが)を
ひっくり返してしまうものとなった。

スペイン独特のパンが懐かしく美味しい。
イカ墨のソースなんかを含ませて味わい
白ワインでのどを潤す。
久々のパエリヤも実に香ばしかった。

ぽかぽか春の日照り。
完全に気持ちよくなって
「スペイン坂」を挟んで目の前に聳え立つ
来週からシネマライズで始まる
ロスト・イン・トランスレーション」の巨大看板を
ぼーっと眺める2人であった。