開けゴマ!

恵比寿で会社の1つ上の先輩2人と飲む。
学部はバカ商とアホ文とド田舎、それぞれ違うが
同じ大学の2人はともに卒業も1個上。
しかし年齢はこっちの方が1つ上という
会話が時々敬語になったり、タメ口になったり
複雑な関係。
とは言っても、僕が大学入るのに
2年かかってしまっただけのこと。
楽しければそんなことどうでもいいのだ。
久しぶりに学生気分でバカ騒ぎした。
会社のこと、結婚のこと、これからのこと。
そこんとこどうなのよ、人事。
ぼけ、詰めが甘いんだよ、販促。
何、会社の先輩とくっついてんだよー。
勝手にモデル店作ってんじゃねーよ、直営。
などなど罵声が飛び交う。
入社当時、いつまでも学生気分が抜けていない
と叱られた奴と
そんな奴に恋愛相談して付き合い始めた会社の
先輩とめでたく婚約したお局と
未だ人事にいることに自覚が足りない僕の3人。
気がついたら、店内の客は僕らのみとなっており
店員はきびきびと店終いの準備をしている。
「じゃあ、そろそろ」と決まりの台詞でも発して
会計済ませて、それぞれタクシーに乗って帰ることにした。
 

    • -

 
タクシーの運転手が
どれだけ長距離のお客様を獲得することができるか
考えに考えたサービス。
答えは名刺配りとちょっとした気遣いと口コミだという。
ちょっとした気遣いとは
缶ビールとおつまみをしっかり用意することらしい。
要は、長距離のお客様を乗せたときに
サービスで缶ビールとおつまみを差し出す。
お客様もすっかりご機嫌になって
気分爽快。ちょっと一眠り。
「お客様、着きましたよ。」とやさしい声で
運転手に起され、気がつくと既に自宅の前。
お釣とともにその運転手の携帯電話の番号が
明記された名刺を渡される。
「また、よろしければいつでもお呼び下さい。」
運転手の笑顔とともにバタンと扉が閉まり、
ハンドブレーキが解除され、ブゥーンとそのタクシーは
闇へと消えていく。
1人自宅の前に残されたお客様は
なんか気分良かったなぁ。またお願いしようと
その名刺を財布にしまう訳だ。
 
翌週、飲みの場でお客様は会社の同僚と
そんな気持ちの良いタクシーの話に盛り上がる。
すごいね、それ。
嘘だー、そんなの。
じゃ、呼んでみようか。
電話の向こうで
「はい、タクシー運転手の田中です!」
「あ、あの先週の金曜日に葛西まで乗せてってもらった遠藤ですけど...。」
「あぁ、遠藤さんですね、臨海公園の。」
「はい。またお願いできますか?今恵比寿ですけど。」
「かしこまりました。丁度今、別のお客様乗せちゃったけど
 近いから10分ほどで行きますね。お待ち頂けます?」
「えぇ、大丈夫ですけど。」
「では恵比寿に着いたら、頂いたこのお電話に折り返してよろしいですか?」
「はい。」
「10分ほどで参ります!ありがとうございますぅ。」
電話が切れる。
ね!とそのお客様は会社の同僚に胸を張り。
宛先を説明することもなく
また缶ビールとおつまみのもてなしで
気持ち良い眠りへと辿り着くことができる訳だ。
 

    • -

 
まぁ、タクシーの運転手の気持ちは
目的地に着いて、お金を支払う前に扉を開けるか
開けないかで、およそ察しがつく。
今日は運転手の会話に付き合ったおかげか扉は開いた。
良かった。